起業支援って何だっけ?~事業創造の内と外

私は長らく知財専門職として新事業創造を”サポート”する仕事をしてきました。それが今年1月設立したベンチャー企業の代表を務めている関係で、新事業をサポートするお仕事をされている方の支援を受ける側に。

 

私のキャリアは企業の特許担当として、研究開発者の研究成果を特許化する”サポート”をすることから始まっています。その時からず~っと思ってきたことは、”サポート”する立場がなんて偉そうというか不親切なんだろう、ということ。

特許業務は専門性が高いので、研究開発者と言えども自力で出願・権利化するのは難しいこともある。ということで、企業の知財担当者が研究開発者と(権利化を代理する外部事務所の)弁理士との間に入って、権利取得をするために足りないデータ、不足する情報を補ったりするんですが、研究開発者に「こういうデータを出せ」「ここがダメ、足りてない」というだけ知財担当者や弁理士が結構、いるんですよね。

 

研究開発者というのは研究開発をするのが仕事ですから、特許を出す段階に至った=終わった研究について追加で情報出せと言われたところで、面倒、やりたくないと思うのが当然です。なのに、研究開発者が特許を取ることをサポートする役割の知財担当者が、高い専門性をカサに着て偉そうに「このデータを出せ」「ここがダメだから権利取れない」っていうのってどうなんだよ、と、ずっと思ってきました。

 

なんでこんな話を引っ張り出したかというと、助成金を取るのを手伝うなどして企業をサポートするお仕事をされてる方に、この手の「不親切」というか偉そうな方が案外、いるなと感じるので。

もちろん不親切な方ばかりではなく、もっとリアルなニーズに迫る必要がある、と指摘し、”雑談”と称して業界・顧客のリアルな課題、状況を教えてくれたり、こちらが知らない情報を提供してくださるような方もいます。

一方で、「ここが足りない」「ここがダメ」「この情報を出せ」というだけで放置。あるいは、”ご親切”な方では、こちらがどうしたいのか何ができるかをちゃんと聞かず、ご自身の解釈で、こちらが考えてるストーリーとは違うストーリーやtodoを作ってくださる方もおられたり。

 

あまり属性でどうこういうのは好きではないのですが、こちらに足りない情報をくれ「仲間」になってくれる前者のタイプは若い方、元気で楽しそうな方が多い。

後者のダメ出しするだけとか自分の解釈でお手伝いくださる人は、優秀なキャリアや過去にプレミアムな組織に所属していたことをにプライドがあって、経営学基本教科はちゃんと勉強して企画部門で経営/事業企画やってたエリートっぽい人が多い。

 

前者の人は「仲間」だと感じるんですが、後者の人はいったい、誰のためにどんな価値を提供してるんだ?自分は誰にどんな価値提供をして対価をもらってると思ってるんだ??という思いを禁じえず。

 

スタートアップをやっているので、投資関連のお仕事をされている人とも接点があるのですが、そういう人にも後者のタイプが多い。うちは現在、出資は求めていませんが、それは、投資を業務としている方がこちらの「仲間」と感じられない後者のタイプが多くて、こちらの役に立たないと感じるから。成長しそうな企業を見つけ、カネを出して「成長しろ」と言って、あれやれ、これやれと自分が描いた「成長ストーリー」を実現しろと迫るような人は、事業創造やってる側からすると、仲間でも支援者でもない。

そういう人を見ると、あなたは誰のためにどんな役に立とうとしているの?あなたの給料はあなたが誰にどんな価値を提供している対価なの?と聞きたくなります。

 

事業というのは、一人一人の日常の暮らしや仕事の中に組み込まれる”何か”を提供すること。事業創造というのは、その”何か”を見つけ出し、それを生産して提供することがその”何か”を必要とする人に喜ばれる、その”何か”を求める人の役に立ち、その”お礼”として対価を得るという仕組みを作って回せるようにすること。

相手の不足を指摘する、相手に何かやれといったところで、その相手はそれができるとは限らない。その時、その相手ができるように補助線を引いてあげる、その相手ができるようになるために必要な”何か”をしてあげること。それが支援、支え合う、ということで、事業活動というのは大きく言えばモノやサービスの生産と提供を介した支え合いなのかも。

 

自分ではできないからやってもらう。支えてもらう。代わりに自分ができることをやってあげる、支えてあげる。

できてないことを指摘し、やれというだけでできる人もいるけれど、そんな人は一握り。誰もが何でもできるわけじゃないから、それぞれができることを増やせるようにそれぞれができることを差し出し合うのが仲間で、そういう仲間なくして事業活動は営めないし、人間社会は成立しないんだとしみじみ、思う。

 

私は長く、不足を指摘すれば勝手に学んで育つ人たちだけでできた「選抜チーム」ばかりを見てきたように思います。不足を指摘されてもどうやったらいいのかわからない人同士が、支え合わなければできない「いる人でやるしかない」状況はわかってなかったと思います。

だから、事業創造を支援する仕事をしながらも、支援を求める側が実行できるのかどうかに思いを至らせ、支援を求める側はなぜどういう気持ちで誰にどんな価値を提供しようとしているのか、そのために何が不足しているのかを見出し、その不足を埋めるための具体的な行動=価値提供はできていなかったんじゃないかと思います。

 

「選抜チーム」は作れない地方でS社の代表を引き受けたのはただの成り行きで、「こんなこと、想定してなかった」とため息つくこともないわけではないけれど、それ以上に、事業創造を”支援”するとはどういうことか、支援を要する側から見ることができてよかった、そう思っています。