お布施と対価

立ち上がるや否やコロナ禍に突っ込んだS社。

S社はテクノロジーベースの大学発ベンチャーなのでこの1年間は、大学のバックアップを受けてチームビルディングと技術開発に注力するはずでした。

が、状況は大きく変化し、コロナ禍での経済的自立が必要に。焦る私は、時間をかけて立ち上げるつもりだった構想をいますぐ現金化できないか画策し始めます。

 

ですが私の職歴は企業の研究開発/企画/管理部門&特許/法律事務所。殿様商売しか知らず、脱サラしてフリーランスになってからも「お布施モデル」を理想とし、まともな営業活動の経験はありません。ちなみに「お布施モデル」というのは私が勝手に言ってるビジネスモデルです。お布施は本来は額は決まっておらず、お経をあげてもらった人が感じる価値・払える額を払えばよい、ということになっています。私は自分が提供したサービスに対してはお布施を頂くように、サービスを提供した相手が受け取った価値を払ってもらうのがいいと思っていました。

その「理想」がいかに世の中一般とずれているかは知らなくもなかったのですが、個人事業として自分がやりたいことをやり、それが喜ばれてお金も入ればいいや、という状況ではその理想を是正する必要はありませんでした。

 

そんな私が、「今の需要」とは別の需要、「今の需要」を支えている価値観とは別の価値観で構想した「未来のビジネス」でこの状況下、顧客を得ようとするなんざ、、、。我ながらなんて滅茶苦茶なんだと思っても、もうこういう機会だからやってみるしかない。ということで、何人かのご意見を伺う中で問われたのは「提案先企業のメリットは何?」。

「お布施モデル」が理想と信じている私は、どういう価値やメリットが欲しいかは受けて(買い手)が決めるから、提案する側は自分がどんなことができるのかどういうことをしようとしているかを説明すればいいんじゃないの?と思っていました。

ですがこの状況で「提案先のメリットは?」と聞かれ、初めて、そうか、自分が受け手(相手)の立場だったらどんな価値が欲しいか考えることは必要だな、ということに気が付いたのです。

 

ついでに、私は2000年代初めから社外有志の勉強会などに出かけていました。そこは、誰かが面白そうなことをしていて自分も入りたいと思ったら、自分はどんな貢献ができるのかを自分で探し出すべし、自分から「こういうことができる」と動くべし、という文化でした。ですから、自分の構想が面白くてそれに賛同してくれる人は、「いいね!じゃ、自分はこういうことするよ!」「こうしたらいいよ」など、前進する何かをしてくれるものだと思っていました。自分の語る未来のビジネスが魅力的であれば誰か手伝ってくれるもんだ、くらいに思っていました。

・・・こうして書いてみると本当に私は”ビジネス知らないお子様”だって自分でも思います(笑)。

お子様なので、構想を提案していいね!と言ってくれるのに何してくれるではない、という反応にがっかり。なんで何もしてくれないの?と思い、そこでハタと気づいたのです。

 

私がいま、この段階で提案してる人は、その人やその所属組織に何かの魅力を感じて一緒にやってほしいと私が思ってるから。ってことは、私がまず、提案先の人なり組織なりにどんな魅力を感じ、どんな貢献をしたいと思ってるかを示すのが先じゃないか。

「あなたたちのこういう活動に魅力を感じています。」「私たちがやりたいこと、できることがその活動に貢献できるかどうか、考えたいので、もっとその活動のことを教えてください。」「私たちがやろうとしているこういうことは、その活動に貢献できるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。」

 

そうか、そうなんだ。私のここまでの提案は、提案先を「お金の出し手」としか見てなかったぞ、そうじゃなくて、提案先は私が惹かれる相手。惹かれる理由はお金を持ってるからではなく、素敵な事業をやってるから。私は私たちの事業活動をすることで相手のその素敵な事業に貢献したい。対価は、相手もこちらも一緒に得るもの。お金をもらおうとする営業は私にはツライけれど、自分たちの事業活動をすることで、一緒にやりたいと思う相手の素敵な事業活動を手伝いたい、という気持ちで提案することなら、愉しめる。

提案を考えること、提案を示すことは、お互いを知るためのコミュニケーション。そう気づいて、お金をもらおうとする苦しさから脱せて、心が軽い週末。